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Una Vita
ちいさなちいさな太陽のしずく


9月です。空が大泣きしているように雨の多い9月です。
1日そして1日と、夕暮れ時刻の早まりを感じ始める頃、
アトリエのガーデンの空には、様々な野鳥が飛び交い、
かすかな夏を楽しんだ花々も、少しずつ初秋の空気にとろけ始めます。

そんな季節。今年は珍しい色たちがお目見えしました。

少し特殊な気象環境の、この箱根ガーデン。
日照時間が少ないせいか、湿気が多過ぎるせいなのか、
はたまた野生動物たちに美味しくいただかれているせいなのか、
庭に植えた苗がみるみる溶けていく現象をよくみかけるのですが、桔梗の花もそのひとつ。
あれほど丈夫だと太鼓判を押されたのに、植えて1週間でキレイに土色に。
春に若緑色が芽吹いても、成長を見る間もなく一瞬にして再び土に還りを繰り返しつつ、早や数年。
そろそろその存在すら忘れかけていた今年になってようやく、初めての花を咲かせました。
植えてから一度もお目にかかれなかった花。
紫・白・紫・白・紫と、2色を交互に植えたことすら、四季を何度か超えた今では完全に忘れており、
咲いた色を見て驚く始末。
これだけ長い間芽を出さなかったのに、地中では元気に根を張って生きていたんだ...とただただ感心するばかりです。

そして極め付けは...これ。

ある日、小鳥たちの歌声に酔いしれながら大きく深呼吸をしていると、
目の前のリョウブの枝から出ている、なにやらニョキニョキしたものが目にとまりました。

「...ん?」

怖いもの見たさで近づいてみると、その姿はまるでちいさなカイワレ大根。
でも明らかにリョウブの葉ではなく、ところどころに豆の殻のようなものがパクッと付いているのです。
記憶の糸を辿っていくと...そういえばここには野鳥の餌を置いたような気が...?
そう、そのちいさな芽は、野鳥の餌のヒマワリの種から出たものでした。
イノシシなどの動物を寄せ付けないようにと、
地面近くを避け、木の枝上に置いていた野鳥用の餌粒たち。
リョウブの木の枝に自然にできていたコブが、まるでお椀のような形をしていたので、
ちょうどいい餌場代わりにしていたら、なんと!こんなことに!
ちいさな野鳥の餌粒は、雨風と共に運ばれた微かな土を捕まえながら、地上2mの枝の上に根を下ろして発芽を始めたのでした。

あまりの健気さについつい微笑みながら、早速プランターに移植し、ダメもとで待つこと数週間。

すると...
すでに寒さが訪れたこの9月に、野鳥の餌は元気な元気な黄色い花を咲かせました。
太陽のひとしずくのような、見たこともないほどちいさなヒマワリの花。
そのちっぽけな体に信じられないほどのエネルギーを持ったこの花は、
台風の暴風雨に耐え、気温の急降下にも耐え忍び、
寒さを感じ始めた心に、まるで一筋の陽光が降り注いでくるような優しい暖かさを運んでくれました。

ちいさなちいさな植物たちの持つ生命のエネルギー。
その偉大さと力強さに、思わずジーンと感動したひとときです。

気がつくと、緑の中からふと秋の音。
メジロ、ヤマガラ、シジュウカラ、ソウシチョウ、メジロにアオゲラと
様々な模様の野鳥の混成群たちが、ちいさな秋の始まりを大空に歌い描きます。

2016年9月24日
高野倉さかえ

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