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春一番のコンチェルト


3月ももう半ばの元箱根です。
今朝、少し春めいた空気の青空を見上げながら歩いていたら、今年初のウグイスが鳴き始めました。

「ホ〜ホホ〜ケッ...キョキョ!」
...あれっ?

「ホ〜」
「ホ〜ホ〜ホ〜...」
...ん?
「ホ〜ケッ!」

何か少し変わったテンポで、思わず腰が砕けます。

春一番のウグイスはいつも微かな、慣れない声で鳴き始めます。
その何かが足りないような、同時になにかひとつ多いような下手な鳴き声が風に乗り、
笑いを誘うように流れ出すと、
箱根の山にも、ようやく春が訪れます。
下界よりちょっぴり遅い春。
そしてたちまち、森は新しい季節のコンチェルトに包まれてゆくのです。

「ココココンッ!」
...おや?
『コンコンココンッ!」
今度はコゲラが家の壁面をつつく音。

「ビービービービー!」
「ビビビービービー!」
白黒にオレンジの模様が鮮やかなヤマガラさんも、
今年はどこにしようか、子育て物件の下見を始めています。

「ピーツツピーツツ♪」
シジュウカラのカップルも負けじと、あちらこちらの巣箱を物色中です。

春の始まりは、様々な種類の音でいっぱい。
賑やかな音楽が、陽光に明るく輝きます。
そしてその中で、ちょっぴりひょうきんな音程のウグイスたちが、ホーホケキョの練習をしています。

厳しい冬の間、アトリエ内に避難していた植物たちも、今日は久し振りにテラスへ。
待ち焦がれていた暖かな陽光の下で、羽を伸ばして日光浴です。

「カサッカサッ」
庭に敷かれた分厚い枯葉ジュータンを踏みしめて歩くのはキジバトのご夫婦。
そしてネコや時々タヌキたち。
枯葉ジュータンのほつれた部分には、フキノトウの新鮮な黄緑色が元気にこんにちは!をしています。

ふと見上げると、青空に向かって白いアセビの花が咲き始めていました。
大きく両手を広げる樹木をふんわりと包み込むように咲く、ちいさなちいさな米粒大の花々は、
近くで見るとまるで幾億もの鈴。
なんだかまるで、スズランが大木化したかのようで、
ここでもまた、うっかり微笑んでしまいます。

そしてキッチンには、昨日届いたばかりの、ある方からの嬉しい贈り物。
昔ながらの方法で、大事に大事に育てられた、早春の採れたて椎茸です。
驚くほど肉厚で、思わずにやけてしまうほど味わい深く、ほんのり甘みのあるキノコたち。
今日はオリーブオイルに岩塩でいただきます。

ちいさな笑顔いっぱいの、春のはじまりの穏やかな元箱根です。

2018年3月14日
高野倉さかえ

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