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Un Viaggio nel Sogno 夢の時間旅行


昔からとてもとても好きな作家がいます。
イタリア・ラヴェンナのモザイクを見るような、黄金の時代の Gustav Klimt。
女性も花も、すべてが美しく大らかに調和した意匠の Alphonse Mucha。
ちいさなガラスアートの中に吸い込まれるような深い空間が続く René Lalique。
フィレンツェのアカデミアで学んでいた時代何度も通ったサンマルコ寺院の Fra Angelico。
何もない空間に光と大気が流れる尾形 光琳。
そして…Jean-Michel Folon。

彼の色彩に初めて出逢ったのは、私がまだランドセルを背負っていた頃。
忘れもしません、東京ガスのCMアニメーションでした。
その瞬間、ふんわりと空に浮かぶような感覚がして
なぜだかわからないけれど、なんとも言えないしあせな気分になりました。
それからというもの、テレビの前に座るたびに 「あぁ、あのCMが流れないかな」と心待ちにした記憶があります。
その名はフォロン。
誰に聞いたのか、その作家の名前は私の心にしっかりと刻み込まれました。
その作家の名がある日、早朝のニュースから流れて来たではありませんか。

「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン 9月23日まで東京ステーションギャラリー」

パジャマ姿でまだ眠い目が一瞬でキラン✨と覚め、画面を見ると、あぁ懐かしいあの色彩がそこにあるではありませんか。
えっ?!しかも23日まで?!あと数日じゃないの!
そうして久し振りに、慌てて山を降り東京へと走りました。

緑に囲まれた山での創作活動に慣れた目が、9月とはいえまだまだ灼熱の陽射しに照らされる都会の風景に驚きます。
元々は混み入った大都会の生まれなのに、いつの間にこの感覚が苦手になってしまったのだろう?
そんな事を数々考えながら、東京駅の地下迷宮に足を踏み入れます。
前後左右から全く違うスピードで飛び出てくる人々の大波にもまれながら右へ左へ。
歩いて
歩いて
どうしたらこんなに迷うんだろう?と不思議になりながら歩いて
さらに歩き続けた先にようやく到着。
そうして扉を開くと、とても懐かしい夢のような色彩の世界が広がりました。

思えば、この作家とは様々なご縁があリます。
長く暮らしたフィレンツェの街の片隅には、彼の作品が多くありました。
噴水の水が出ると、まるで水の傘を開いたようになる彫刻。
そして美しいフィレンツェの街並みのパノラマを大きく包み込むブロンズの旅行鞄。
毎日のように通った、私のお気に入りの場所です。

そんなある日。
フィレンツェでアカデミア大学に通っていたその頃、昔ミラノに住んでいたというイタリア人の友人がいました。
何かの話の流れでふと、フォロンの話題になると突然、彼はこう言い出したのです。

「じゃあモナコに行こうか。会わせてあげるよ。」

その突拍子もないフレーズに、何か妙に都合の良い聞き間違いをしてしまったのではないかと
少し笑いながら「は?!」と聞き返してしまったほどです。
そして聞き間違いではなかった事を確認した瞬間、鼓動が高鳴りました。
どうやら彼は、ミラノにいた時代にフォロン氏の奥様と知り合いだったようで
このひょんな会話の流れから、事態は思ってもみなかった方向へ。
フランス南東部のニースで行われていたフォロンの展示会と
モナコにあるアトリエにまでお邪魔することになりました。
水平線の見える高い場所にあった、フォロンのアトリエ。
描きかけの水彩絵具の雫がたくさんついた机には、使い慣らされたやわらかな毛並みのたくさんの筆が並び
それを眺めるように、少し東洋風の雰囲気を持った大きなアンティークチェストたちがずっしりと壁に立ち並び...

「懐かしいな...」

その記憶の場所から遠く離れたこの東京という地での展覧会。
様々な作品の並ぶ会場には、壁面いっぱいにAntenne2のCMが投影されていましたが
想い出の東京ガスCMアニメーションは残念ながらありませんでした。
でもその代わり、そこには素晴らしい出逢いが。奥様のパオラさんへ宛てた封書です。
それは切手の柄も、配置も、貼り方も、すべてが一体となったひとつのアート作品で
しかもようく見ると、宛名の書き方は単に「Paola」ではなく「Paolina」と記されていたり
天使のイラストの貼られていた封筒の宛名は
Paolaさんの名前+Angelo(イタリア語で天使)の造語で、なんと「Paolinangelo」となっている!
その愛情をたっぷりと込めた表現を見つけた時、心が踊りました。
そして想いは、突然旅行鞄を握りしめて全速力で飛び立ったかのような時間の旅へ。
あの時のフォロン氏のやわらかな笑顔やパオラさんの姿が目に浮かんで心が熱くなり
なんだか嬉しくて嬉しくて、鳥肌が立つくらい嬉しくて
気がつくとひとり、ガラスケースに並ぶその封書たちの前で半分涙目の笑顔になってしまっておりました。
他のお客様から見たら、この人大丈夫か?と心配になられるような姿だったかもしれません。
今思えばそうですが、でも気にしない。
こんなにステキな時間旅行ができたのだから。

9月のある日。二十四節気では白露ももうすぐ終わり。
秋の気配が進み、露が草花に降り立ち白く輝き出す季節のはずですが
まだまだ夏の陽気だねと
満月が空から微笑みます。

2024年9月18日
アトリエより。
高野倉さかえ

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