ある雨上がりの日。 訪れた海辺で、大きな大きな虹を見ました。 空をゆったりと包み込むそのアーチは、太く、存在感のある眩い輝きで現れ 珍しく、虹の生まれる場所がはっきりとわかります。 海沿いのちいさな町から生まれ、空を駆け巡る光の帯。 赤→橙→黄→緑→青緑→藍→紫と並ぶ7色がなんとも久し振りで見惚れていた、その時です。 ...ん?紫の下にまだ何色か見えるような..? ようく見ると、紫の後にまだ何か少し明るめの他の色が見えています。 以前トスカーナの田舎町に住んでいたある日、二重の虹を見ました。 その時に初めて、2本の虹は色の並びが逆になるという事を知りました。 外側が赤から始まり、紫が内側となるいつもの配色の虹と、外側が紫から始まるという不思議な虹です。 なので今回もそのように2本の虹が出て、しかもその2本がくっついているのではないか?!と内心驚きました。 興味が沸々と湧いてきて、帰宅して調べると... 虹が2本出る場合、色の並びが反転した「副虹」は必ずいつもの虹「主虹」の外側に出るようで その逆はないとの事でした。 ...それならあの光の色は? 気になって気になって、ひょんなことから虹の研究が始まってしまいました。 幼い頃の私ならこういう時「百科事典を読みまくる」または「図書館に走る」しか方法がありませんでしたが こんな時は現代社会の便利さが身に沁みます。 ネット検索で目の前に現れる莫大な資料の数々。毎回感動します。 タカタカとキーボードの音を立てまくり、発見した新しい虹の名前はこうでした。 「supernumerary bows = 過剰虹」 そう、私がこの日出逢ったものと同じ、7色で終わらない、色数の多い虹です。 雨粒が比較的細かい場合に現れる事が多く さらに一粒一粒の雫のサイズが均一に揃っているほど縞模様が明確に別れて見えるそうです。 それはいつも主虹の内側にくっつくようにして現れるという事もあり おかげで虹の縞模様がいつもより少しゴージャスに多く続いているように見えます。 また稀にですが、副虹のさらに外側にも出現することもあるとか!あぁ出逢ってみたいものです。 秋の虹は淡く、すぐに消えてしまいがちとよく言いますが その日のアーチは珍しくとても強くて、かなり長い間、目の前を飾ってくださっておりました。 それはまるで、架け橋を駆け上って行けるような丈夫さで。 夏の季語といわれる「虹」という言葉。 でもそこに「初」がつくと春の季語になる、不思議な言葉。 夏は鮮やかで力強く光り輝き、そして春は儚げでやわらかい。 虹の大きな架け橋をくぐってみたくて、追いかけて追いかけて歩き続けた幼い頃の想い出。 一瞬一瞬、姿を変えてゆく光の魔法をみつめながら、様々な想いのよぎる、雨上がりの秋の日でした。 2025年10月19日 アトリエの窓より。 高野倉さかえ