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ギンモクセイの島


 残暑の厳しい東京を後に、飛行機に乗りこみ約13時間。
降り立ったヨーロッパの地にはもうすでにひんやりと冷たい季節の気配。
秋です。
周囲を歩く人々は既にカーディガンにコートまで準備済み。
一方、半袖で日本を旅立ってしまった私は寒いこと寒いこと…。

 そしてイタリアに戻るといつもやって来るあの感覚が、今回も再び顔を見せ始めます。
「日本で過ごしたあの日々は…もしかして…夢?」
鮮やかな空の色、道行く人々の強い香水の香り。
なにもかも違うこの国を歩いていると、昨日まで私を包んでいた日本の景色がまるで幻のように思われ、
その中にあった出来事すべてが実在しないもののようにすら思えてくるのです。
なんともつかみどころのない不思議な感覚。イタリアに戻って真っ先にしなければならない作業は、心の整理。
そう、現実と夢の確認作業なのです。
そして頭はついついぼんやりモード。
いけないいけない、早く仕事に戻らなければ。
今月末にはアトリエの引っ越しも待っているというのに…!

 そんなある日、ふらっと近所の湖へ。
ビエッラから車で1時間弱、オルタ湖に浮かぶ小さなサン・ジュリオ島へ渡って参りました。
静寂に包まれたその島は周囲の長さが約650m。
大きな教会と修道院で構成された建物の間に、細い石畳の路地が走っています。
ガタガタと不規則に敷かれた石につまずかないようゆっくりと歩き出すと、どこからともなく甘く懐かしい香り…。
その正体を求めて進んだ先には…米粒ほどの小さな花の降る一角が待っていました。
銀木犀です。
そう、大好きなモクセイ!
イタリアでこの香りに出逢うのは初めてかもしれません。
17年目にしてやっとみつけた香りに包まれてふと目を閉じると、心は瞬時に日本の秋へと大逆行。
そしてまた、心の中の不思議な混乱は続きます。
一体ここはどこなのでしょう??

2010年9月20日
秋の香りが水辺を漂う、北イタリアより。
高野倉さかえ

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