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レントゲン越しの空


イタリア全土がバカンスに酔いしれる8月。
地中海の水辺は小麦色のイタリア人で大賑わい。
この時期に少しでも陽を浴びておこうと必死です。

 そんな8月の太陽と言えば思い出すのが12年前のあの日。
フィレンツェ旧市街での夏の出来事です。
当時住んでいたサンタ・クローチェ広場からアルノ川に沿って散歩をしていると、川沿いのあちこちに人が集まり、なにやら上の方を見ている。
世界遺産にも登録されている有名なフィレンツェのこと、人が多いのは当たり前ですが、
その日はどうも観光客らしからぬ人々が多く、そしてその手には謎の黒いプラスティック下敷き。
彼らはそれを頭上にかざしながら、なんだか熱心に下敷き越しの空を眺めているのです。
不審に思って近寄ってみると、下敷きに見えていた黒シート表面にはうっすら白ぼけた模様が1本そして2本。
「…ん?…これって骨?!」
彼らがかざしていたそれはなんとレントゲンシート。
そしてその向こうには、真夏の太陽が輝いていたのです。
するとさっきまで眩しかった陽射しが淡く雲をかぶったように曇り始め、しかし空には雲ひとつなく…。
そう、それはイタリアで初めて目にした部分日食でした。
時間は確か昼近くだったような覚えがありますが、アルノ川にかかるいくつもの橋を照らす日光は、朝とも言えずまた夕方とも異なった色あいに。
それだけでも十分不思議な景色なのに、右側のおじさんは肋骨、左側にいた男の子は大腿骨、そしてその向こうのカップルは脊髄と、
周囲の人々が様々な部位のレントゲン写真を空にかざしていて、その光景が日食以上に妙に心に残ってしまい…。
病院側がカルテを保管してくれないこの国では、レントゲン写真もすべて患者が管理しなければならないのですが、それがこんな時に役立つとは!
忘れられない驚きの風景でした。
私もいつの日か、このたまりにたまったレントゲン・コレクションをこんな風に活用しなければ!(笑)

 残暑お見舞い申し上げます。皆様、今年も想い出に残る素敵な夏をお過ごしくださいませ。

2011年8月
高野倉さかえ

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