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郵便箱の家


ひんやりした風の毎日に季節感が少々おかしくなっていると…カレンダーを見てビックリ!
職人が夏のバカンスに旅立つ前に額の注文をしなければ!!
スニーカーの紐をギュッと締め、デコボコ揺れる石畳を力強く歩いて行くと、いつもの額職人の工房が今日もガラス戸を開けて待っています。
工房の奥から聞こえて来るトスカーナ弁の職人は、どうやら注文されたサイズを忘れた様子。
「こっちはね、1年で何百もの額を作っているんだから、ひとつひとつサイズなんて暗記していられませんよ!」
なぜ紙に書かないのだろう?という想いが一瞬頭をよぎるが、ここはイタリア。
そんな細かい事を言っていたら芸術品は生まれてこない。
そんな懐の大きな国だからこそ、のんびり者の私もこうやって生き延びてこられたのだ。
そんなことを考えながら周囲に並ぶ額見本を眺めていると、話を終えた職人がこちらにやって来た。さぁ一仕事一仕事。

 この職人の作る額たちは、1点1点色塗りや箔づけを施していくハンドメイド。
まず形を決め、ベースとなる色を選び、その雰囲気を引き立てるような箔を選び装飾してゆきます。
同じ青色の額でも、そこに金箔を入れるか銀箔を合わせるかで大きく雰囲気が変わるので、
額職人の客観的なアイディアを聞くのがとても新鮮で興味深く、最近では額のイメージからインスピレーションを受けて新しい絵画が生まれてくる事さえもあるほど。
アンティークのような年季の入った道具が溢れかえる工房の香りはまた心地よく、魔法使いの工房にでも来ているような錯覚に陥る…大好きなひとときです。

 そんなある日の午後。
友人の家を訪ねると、玄関には郵便箱がふたつ。
おや?と不思議に思っていると、そのうちのひとつにはどうやら住人が!
彼らがみつけた最適な住まい。郵便箱の小さな鉄製の扉を開けると、そこには手紙ならず枯れ草や枝で端正に作られた巣がぎっしり。
そして…ピヨヨ〜ン♪
生まれたばかりの小さな小鳥たちがお母さんの運ぶご飯を待っていました。
小鳥たちの扉を開けた事に気がついたのか、隣の大木からは慌てる親鳥の声が鳴り響き…。
お留守中に勝手にお邪魔しちゃってごめんね皆さん〜!

2013年6月
高野倉さかえ

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