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香りの生まれる場所


7月に入って、寒い箱根もようやく少しだけ半袖の季節。
庭の巣箱では、先月のヤマガラに引き続き忙しく飛び交う鳥たちが行ったり来たり。
今年第二弾の巣作りそして子育てが始まったようです。
今回の住人はシジュウカラご夫婦。
手際よく家財を持ち込む姿を見ていると、どうやらかなり引っ越し慣れしたお二人のようです。

ここ最近は深い霧に覆われた日が多いこの箱根山。
気温は上がったものの、窓の外は白いベールに包まれるばかり。
その眞白な景色の中、時折強く吹く風が運んでくるのは、しっとりとしたあまいあまい香り。
眞白な八重のくちなしがやわらかく花びらを開きました。

イタリア語でガルデニアと呼んでいたこの花。
夕方から夜にかけて香りがより濃厚になり、
まるで周囲の緑まで眞白な香りに染まっていくようです。

学名を見ると記されている言葉は「Gardenia jasminoides」。
「Gardenia」はイタリア語そのまま。
その後に続く種名「jasminoides」は...
おや?
  この単語、どこかで見たことがあるような??
そう、私が長年ジャスミンだと信じ込んでいたあの花にも、この種名が付いていました。
「Trachelospermum jasminoides」。
アーチに蔓を伸ばしどんどん空へと伸びてゆく、あのスタージャスミンです。
(詳しくは過去のブログリスト「星屑のジャスミン」の項をご参照ください。)
両者とも種名に「ジャスミンのような」という意味の「jasminoides」がついている!
見た目はまるで違うけれど、なるほど、ジャスミンのように濃厚なこの芳香、確かに似ていますね。
でも気がつくと庭には「ジャスミンもどき」の花ばかりが増えてきてしまっている。
そして肝心のジャスミンはというと、初年度の夏の終わり、いとも簡単に雨の中へと溶けて行ってしまいました。
冬の寒さが厳しく、霧や湿気も多いこの土地では、栽培が難しい花々が非常に多く、
太陽の降り注ぐトスカーナのように一筋縄にはいきません。

中心からぐるぐるっとひねって咲いていく、眞白なガルデニアのその姿は、
近距離で見つめていると、まるでシルクのドレスが風に流れるよう。
歌手のビリー・ホリデイが好み、よく舞台で髪に飾ったと聞いていたけれど、
あの心休まる歌声はいつもこんな香りに包まれて生まれていたのかと、
ふと瞳を閉じて想像し始めること数分。
するとガルデニアの庭は、一瞬にして193o年代の舞台へ。
大きなスタンドマイクを前にして立つ、ビリーの歌声が響き始めます。

絶えず音楽が流れている、アトリエでの制作時間。
季節や天気そして体調などに応じて、毎朝様々なジャンルの音楽を選びますが、
その中でも大好きなのは、そう、遠い昔のオールディーズ。
のんびりしたテンポが性格に合うのか、
自分が生まれ育った時代より遥か昔の曲なのに、とても心が落ち着きます。

「You're the sweetest thing 〜 I have ever known〜♫」

もしかしたら前世は、この時代にいたりしたのでしょうか?

花言葉は「幸せを運ぶ」というこのガルデニア。
霧に霞むアトリエにも、やわらかな幸せの香りを運び続けています。

2018年7月8日
高野倉さかえ

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