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Sensazione d'Estate 水音と素足の夏


いつもより暑めの、夏の日。
お陽さまから降り注ぐ眩しい光の中を歩きながら、ふと、思いました。
そういえば、しばらくサンダルを履いていないなぁ…と。
私の足元はイタリアで暮らしていた時代、陽射しが少しでも暖かくなるとすぐに薄着に変身。
冬場に大活躍のロングブーツからいきなりの、裸足にサンダル仕様でした。
思えばあの国には、季節の変わり目があまり感じられなかった。
感じたとしても、それはあまりにも素早く走り去ってしまうので
日本で重宝していたような春秋の服装がほぼ必要ありません。
陽射しが少しでも暖かくなると、人々はあちこちの広場に出て来ては、教会前の幅広い階段などに座って日向ぼっこ。
建物の陰が斜めに移動して来ると、座っていた人々も陽光を求めて大移動。
その情景を見る度に、なぜか笑顔になりました。
車の中には敷物が常備されていることが多く、郊外で草むらをみつけると早速敷物を広げてゴ〜ロゴロ。
本当に、本当に自然と一体化したようなライフスタイルでありました。
澄んだ水の流れなどを発見した日は、水辺に降りて行き水面を楽しむ。
サンダル履きの足が水に入った時のあの感覚。忘れられません。

そのサンダルがあまり使われなくなったのは、箱根山に住み始めてからでしょうか。
ランダムな角度の斜面が豊富なこの場所。
足を挫いたりせずに無事歩けるようにと靴の形を考えるうちに、ヒールのあるブーツも履かなくなりました。
各種スニーカーが登場し始め、靴箱のラインナップがガラリと変わった、山の生活です。

フィレンツェの街中に暮らしていた時代、外を歩くといつでもたくさんの人々が歩いていました。
国も言葉も様々。冬でも半袖の人がいたり夏でもブーツだったりと服装もかなりバラエティーに富んでおりました。
その中で、その人が地元の方なのか観光客なのかが一目でわかるポイントがありました。
足元です。
恐らくお洒落なイタリアならでは。そしてフィレンツェならではという事なのでしょう。
地元民はあまりスニーカーを履いておらず、革製のサンダルやブーツが目立ちました。
そういう私も同じ。ガタガタの石畳の道をどんなに歩く日でも足元には革製の靴。
なので靴を新調した日の足の苦しみと言ったら… 。
人間の足を手に入れた人魚姫はもしかしてこんな想い、いや、これ以上の痛みだったのだろうかと想像しながら
かかとに絆創膏を貼って歩いておりました。(苦笑)
今考えると、なぜそこまでして革靴を履いていたのだろう?とも思いますが...環境とは不思議なものです。
そしてその名残りなのでしょうか、今でも私のバックには絆創膏が常備されております。

箱根での生活が始まりスニーカーを履き始めた時、当然のことながら、その柔らかさと軽さに驚きました。
そして歩いた時の静けさ。まるで忍のようです。
ですが逆に、その軽さに足が慣れられなかったのか、しばらくは何もない場所でつまずいたりもしました。
よく転ぶ忍。面白い光景ですね。(笑)
あれから時が経ち、私の足元も今では随分とスニーカーに慣れてまいりました。
そしてある夏。発見したのが「マリンシューズ」です。
強い流れや打ち寄せる波にも負けず、足をピッタリ包み込む密着感。
そしてまるで何も履いていないかのような軽さと、岩場をも歩ける安心感。
これこそ忍の履き物のような感覚に驚嘆です。
水中を歩き始めた時の…あぁ、気持ちの良さ!
イタリアの夏の水音をふと思い出しました。

水の流れゆく音。
そう、日本は田園風景の中の水音がとても美しく、出逢う度に心が癒されます。
風がやって来て、スクスクと育った水稲の緑をサワサワと揺らすと
緑の波が水田の向こうまで風に乗って走ってゆくようで
特にこの時期の水田の風景に出逢うと、見惚れてしまいます。
そんなある年の夏の事。
緑色の水稲の波が豊かな伊豆のとある場所をドライブしていると、偶然、田んぼアートを発見しました。
稲の成長と共に色彩も変化してゆくこのアート。
上から見下ろさないと絵柄が全くわからないという事で、簡易展望台のような足場が組まれています。
恐る恐る登ってみると...
おぉ!
そこには伊豆の踊り子さんが描かれておりました。
お米も様々な種類があるとは思ってはいましたが、品種によってこれほどまでに色が違うとは新たな発見です。
しかもこれほどまでに大きな絵柄を考えつつ田植えをする作業は、それはそれは大変だった事でしょう。
この時期にしか見られない素敵な偶然。良い出逢いでございました。
あのアートは今年もあるのだろうか?
そして毎年同じ絵柄なのだろうか?
そんな想いから、今年もまたその田んぼを訪れてみることにしました。
到着すると、そこにはまだ例の簡易展望台が、相変わらずやや不安な様子で聳え立っています。
再び恐る恐るの足取りで登りつめていくと...今回は富士山が大きく描かれておりました。
毎年絵柄が変化するようで、楽しみがまたひとつ増えた、夏の日でございます。

2025年8月17日 トンボが高速で飛び交う、アトリエの庭より。
高野倉さかえ

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