空から降る雫に潤う大地の緑。 地上には色とりどりのアジサイが、まるで色彩の雲のように群れを成して咲いています。 漢字で紫の陽光の花と書く「紫陽花」。 小学校の漢字テストで、向日葵や蒲公英などと並んで印刷されていたこの漢字表記に初めて出逢った時 なんて素敵な文字を連ねた名前だと、感動しました。 ですが、私の中のお気に入りアジサイ色はいつも青一択だったので、なんとなくしっくり来ない感じがして 「青陽花という名前にしたいな。でもそうするとピンクのアジサイには似合わないし...どうしよう?」などと この花にもっとぴったりの名前が他にないだろうかと取り留めもなく考えている... それが毎年恒例、この季節独特のルーティーンでした。 あれほどたくさんの色がある花なのに、なぜピンポイントで紫の陽とつけられたのか? もしかすると、元々は紫しか存在しなかった花だったのだろうか??? 気になって語源を調べた挙句に、衝撃の事実を発見したのはつい最近のことです。 「平安時代の学者の勘違い」 なんとなんと!...言葉を失ってしまいました。 そもそも「アジサイ」は、呼び名の音の語源と漢字の起源が別にあり 音の由来は「あづさあい(集真藍)=小さな青色の花が集まって咲く様子」を表したものがなまって アジサイになったという説が数々ある説の中でも有力視されているようです。(諸説あります) では、ここで青系の色「藍」に重きを置かれていたはずのこの花の漢字がなぜ「紫」に変化したのでしょう? それは昔々、唐の詩人・白居易が、あるお寺で出逢った紫色の花を詩に詠んだ事から始まります。 何年植向仙壇上 早晩移栽到梵家 雖在人間人不識 与君名作紫陽花 美しい花ではありましたが、誰も、その寺の僧侶すらも名前を知りません。 その可憐な花の為に、詩人は「紫陽花」という名前を考えだしました。 実際のところ、彼が見ていたのはライラックなどの別の紫花だったということらしいのですが 中国の書物に記されたこの美しい「紫陽花」と言う文字が、平安時代の学者・源順(みなもとのしたごう)の目に留まり 後に様々な勘違いを経て 当時日本で「アジサイ」と呼ばれていた花の当て字として定着してゆくのです。 だとしたらなるほど、ライラックの花の方は確かに 「紫の陽の花」という漢字の持つ雰囲気により一層合っているように感じます。 言葉の持つ雰囲気。 そういえば、西洋の学名もまた、透明感のあるとても美しい響きです。 「Hydrangea (水の器)」 この名前を聞くと、透明感のある様々な情景が心に浮かびます。 果てしなく空から降り注ぐ雨の雫が緑を潤し、花々を輝かせる瞬間。 そして水のように透明なガラスの器に浮かぶ切り花の姿も美しくステキです。 英語でも使われているこの学名「Hydrangea」の由来、元々はギリシャ語ですが 現在のギリシャでの一般的な呼び名は全く別で 「庭」を表すラテン語が由来の「🇬🇷Ορτανσία(オルタンシア)」が広く使われています。 思えば、イタリアやフランスでもこの「庭」を意味する呼び名が語源の 「🇮🇹Ortensia(オルテンシア)」そして「🇫🇷Hortense(オールタンス)」という名前をよく耳にしました。 そういった呼び名の変化の経緯もまた興味深いです。 土壌のpH値でも色彩を変えてゆくこのアジサイの花。 強く、潤いを讃え、台風の多くやってくるこの国でも元気に育ち 伐採をした際に挿し穂を作ると、100%に近い素晴らしい確率で繁殖し ワイルドなこのアトリエの庭でも、驚くほどエネルギッシュに増えてゆくこの花。 これからどのように色彩が変化してゆくのか、毎年楽しみでなりません。 2026年7月12日 水に潤う色彩のアトリエより。 髙野倉さかえ